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『人はアンドロイドになるために』読書報告

お題「好きな作家」

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アイデンティティ、アーカイヴ、アンドロイド
I Wanna Be Adored

才能の保全をアンドロイドによってされ始めた社会。
アンドロイド化されたアーティスト。

自分の能力が衰えていく中で、
完璧以上のコピーを何年も繰り替えすアンドロイドを巡る話。

自分の作品を後世に残したいのは分かるけれど
「自分自身」を永遠に残そうとすると生まれる問題ある。
死ぬ時に完璧なまま残る自分をどう観るか。

思い出したのは『東京喰種』
不死身な方々が沢山出てくる。
殺し方は断頭。でも死なない。

断頭すると頭には自我が残ったまま、新しく頭が再生される。
思考も完全にコピーされた新自分が生まれて、旧自分は頭に残ったまま。
この作品はアイデンティティは何に宿るかという問いを残して行きます。

才能の保全は人間国宝でも語られる。
アンドロイドが実用化された時に
使われ方の一つとして検討されるでしょうね。

遠きにありて想うもの
See No Evil

遠隔対話が可能なテレノイドが出てきます。
上半身だけのマネキンのようなデザインを前にして、
スカイプのように対話する。既に実在ですね。

生身の人間との対話がコミュニケーションを活発化させるわけではない。

Pepparが認知治療の介護ロボットとしても使われていて、
普段話さないご老人もPeppar相手だと話すこともあるそうです。
コミュニケーションのタイプによって必要な存在のカタチは違う。

先のアイデンティティは何処へ?という問いにに加えて、
遠い場所とのコミュニケーションのあり方が描かれます。
実はすでに実例がある。

karapaia.com

 

人間がする予測と、その対象の動きが合致している時に存在感がする

とりのこされて
Wish You Were Here  

アンドロイドを庇おうと人間の死傷者を出してしまう主人公。
ロボット至上主義者団体からすると象徴となった彼は、
自身の複製を持ちかけられます。

身体性の分裂が
自我のありようにどう影響を与えるのか?

 

森博嗣さんのWシリーズの中には、
集合知としての人工知能が描かれていました。

中央集権的なイチ個体が分裂した個体を支配するのではなくて、
スタンドアローンな個体から定期的にフィードバックされて総体意識が成る。

この作品で描かれたオーロラの自我は分断されているけれど、
総体としてまとまってる 。


そもそも人間の身体も髪の毛は抜けるし、
爪は切るし、身体組織の何%かは常に入れ替わって分断されている。
分断されてなお総体としての自我を保つには
分断率が鍵かなと個人的には思います。

時を流す
Radical Paradise

身体性の分裂が
自我のありようにどう影響を与えるのか?
この問いの発展版。

身体の拡張が環境にまで及んだ場合の自我のありようともなると、
想像したことない埒外だ…一気に広がっています。

宗教とロボットに関しては、
ガーディアン紙で描かれていたロボット牧師が印象に残っている。

(英語)

www.theguardian.com

州教会ヘッセン・ナッサウ福音主義教会が開発。
教会の役割を機械化したいわけではなくて、
機械に宗教的な側面を付与することは可能かの実験だそうです。
複数言語での祝福を述べる機械。

後ほど信仰の対象となるロボットと、
信仰を伝播するためのロボットがあるという話が出てきます。

『サイコパス』でのシビュラシステム、『1984年』のビッグブラザー。
絶対者としてのシステムは否定的に描かれることもあるけれど、
伝播するためのロボットは案外社会は受け入れるかもしれない。

人はアンドロイドになるために
You can't catch me

移植を受けていたミカが、
アンドロイド化を志向していく過程とその後。

身体を組み替えることで
思考が変わっていくと描かれているけれど、

身体を組み替えることで
社会との関わりが変わっていくことが間に入ってると思った。

いわゆるバリアフリーの考え方は、
身体が変わってしまっても「社会」との関わりが変わらないようにする。

設備的なサポートがあっても、あくまでサポート。
「社会」全般は変わらないから上手く馴染まない面もある。

生活範囲も思考範囲も有限なので、
小さくとも摩擦が100%ない「社会」があれば、
別な地平も開かれるのではと思いました。

全6編からなるこの物語は、
身体の拡張とアイデンティティの在りかを書いている印象でした。

対ロボットという対立構造ではなくて、
交わっていくものという文脈で様々な思考実験されています。

考えうること多いのでおすすめ。 

人はアンドロイドになるために (単行本)

人はアンドロイドになるために (単行本)